工房の中で、2メートル近い大きさの天蓋の柱に静かに漆を塗り重ねていく大井さん。
天蓋(てんがい):仏像や仏具の上に設けられる装飾的な覆いのことです。寺院でご本尊の上部を飾る重要な意匠ですね。もともとは古代インドで王侯貴族が外出する際、強い日差しを避けるために使われた日傘に由来するのだそうです。
張りつめた空気の中で、刷毛がすぅっと運ばれていくたびに、表面がみるみる光沢を帯びていきます。埃を立てることが許されない場面では、人間の動きひとつひとつに自然と緊張が宿ります。
そんな中、変わらない落ち着いた手つきで、丁寧に丁寧に塗り重ねられていく漆。重ねられるほどに艶が深まっていき、白い手がより白く映り込んでいく様子がとても印象的です。

古一漆工に入社して9年。
普段は多くを語らない寡黙なお人柄ですが、仕事の中に確かな積み重ねが見えてきます。
そんな大井さんが昨年9月に京都伝統産業ミュージアムにて開催された、第48回京仏壇・京仏具技術コンクール展において、
伝統的工芸品指定技術部門(経験年数12年未満の部)
京都商工会議所会頭賞
「別製立焼香机 妙法型」
漆工部門(漆塗)
を受賞しました。(https://kyobutsugu.com/archives/1151)

このコンクールでの受賞は、伝統工芸に携わる職人にとってひとつの節目です。とくに経験年数12年未満の部は、これから先の歩みを期待される世代の登竜門ともいえる位置づけにあります。
伝統工芸士:経済産業大臣指定伝統的工芸品の伝統的技術・技法を有している方の称号。
親方の説明を受けて初めて知りましたが、伝統工芸に携わった仕事をしている人が伝統工芸士と名乗ってるわけじゃないんですね苦笑。
経済産業大臣指定の伝統的工芸品の技術・技法を身につけ、こういったコンクールへの出展経歴、なおかつ12年以上の従事年数を経てはじめて、その資格に挑戦することができ、合格して初めて名乗ることができるものなんだとか。
日々の仕事は、特別な出来事として残るものばかりではありません。けれども、こうして積み重ねてきた時間の中に、静かに形となって現れる瞬間があります。それは工房で働く全員にとって、誇りとやり甲斐の力として蓄積されていくのだと思います。
伝統工芸士と呼ばれる人の歩みの長さや重みを少しづつ実感しながら、親方の話を聞いているのに、
自分の頭を撫でながら、一言ぽつり、「俺は伝統こけしやけどな」
話にオチをつけたがる親方、弟子の活躍にどうしても嬉しさと照れを隠せない親方、師弟関係が逆転する日もそう遠くないかもしれませんね笑